災害医療の目的ー防ぎえる災害死
そもそも災害医療とは何を目的とする分野なのか。
医療技術をもって、直接的な災害死を防ぐのは困難である。偉大な自然の力には医療技術は為す術がない。津波を医療で防ぐことはできない。
大事なポイントから先に述べると、災害医療のターゲットは防ぎえる災害死(災害関連死:preventable death)をいかに減らすかということである。
特に薬学の観点からであるが、ライフラインの途絶や燃料不足、医薬品などの物資の供給不足などにより、多くの医療機関や診療機能が低下し、十分な保健医療や公衆衛生的対応が取れないことによって多くの死が招かれる(災害関連死)。これに対して通常と同等、もしくはそれ以上のレベルで対応することが災害医療では大事になってくる。
では、防ぎえた災害死の原因にはどのようなことがあるのか。
二つのデータを紹介する。
医師10名による全1006の死亡症例に基づくデータ
厚生労働科学研究「防ぎ得る災害死の評価手法について個々の死亡症例検証に関する研究」で被災地内40施設すべてを訪問し2011年3月11~31日に死亡した全1006症例のカルテを協議した結果、防ぎ得た災害死は141症例(14%)であった。
その原因は
- 医療物資不足
- 常備医薬品の不足
- 医療介入の遅れ
- ライフラインの途絶
- 避難所の環境/居住環境悪化
などであった。
(避難所内の様子)
(食中毒注意のビラ )
(避難所のごみ)
復興庁の震災関連死に関する検討会報告書に基づくデータ
復興庁が被災自治体を通じて集計している「災害関連死」は、2014年3月末時点で3086名にのぼる(警察庁発表の東日本大震災の直接的な死者・行方不明者数1万8486名)。その死亡に至った内訳は、
- 避難所における生活の肉体・精神的疲労(33%)
- 避難所等への移動中の肉体的・精神的疲労(21%)
- 病院の機能停止による既往症の増悪(15%)
- 地震・津波のストレスによる肉体・精神的疲労(8%)
- 病院の機能停止による初期治療の遅れ(5%)
- 原発事故による肉体・精神的疲労(2%)
であった。
死亡場所として、病院・介護施設や、自宅などの普段の生活場所がそれぞれ3割ずつ、避難所滞在中が1割であった。
死亡の具体的状況としては
- 冷たい床の上に薄い毛布一枚
- 濡れた衣服のまま数日間過ごす
- 避難所という狭いスペースで過ごすことにより疲労困憊
- 断水でトイレを心配し、水分を控えることにより脱水
- 歯が悪く、配給されたものが食べれない
- いつもの剤形の薬でないものを処方され、服用できない
- ヘルパーが来ない
- 病院が閉鎖され、自宅療養を続ける
- 避難先が決まらず、玄関先で長時間待機
- 避難所などを転々とした
などがあった。これに関しては、医療云々の話以前に、食料や生活環境の問題であり、医療従事者のみならず、支援する側全ての人の心がけ1つでたくさんの命が救えたのではないかと思われる。
(花山コミュニティセンター避難所裏に設置された仮設トイレ )
【画像提供】
災害写真データベース
http://www.saigaichousa-db-isad.jp/drsdb_photo/photoSearchResult.do
【参考文献】
災害薬事標準テキスト
監修:日本集団災害医学会
編集:大友康裕