災害時の薬学生の支援活動とは
南海トラフ地震が近いうちに起こると言われている現在、災害が起きた時に薬学生として自分も何かしたいと思っている人は少なくないのではないでしょうか。
そこで今回は、2011年3月11日に起きた東日本大震災における薬学生の支援活動をまとめるので、今後自分が支援活動をするにあたっての準備や心構えの参考にして欲しい。
支援活動を行った学年とその人数
6年生・・・2人
5年生・・・4人
4年生・・・10人
3年生・・・4人
2年生・・・2人
1年生・・・0人
活動時期
亜急性期もしくは慢性期
参加した動機
- 知人の紹介
- 研究室経由の連絡
- 知人の薬剤師あるいは薬剤師会に参加できるように頼んだ
- 自分で開始
- インターネット検索により医療チームを見つけて頼んだ
- 実務実習中の指導薬剤師の紹介
事前に準備した物資
動きやすい服装、マスク、軍手、寝袋、食料、水、長靴、消毒薬、絆創膏、常備薬。
高学年の学生は、医薬品情報を得るための書籍も併せて持参していた。
活動形態
- 医療支援チームに帯同して活動を行う(延べ12人)
- 医療者がコーディネーターとなり活動を行う(延べ12人)
- 学生が個人で支援活動を行う(延べ11人)
支援活動内容
亜急性期(低学年)
- 医薬品の仕分け、運搬、管理
- 公衆衛生活動
- 医師、看護師の往診の補助(薬剤師不在の場合)
- 被災者のニーズ調査、避難所情報の収集、整理
- OTC薬、サプリメント、衛生用品の仕分け、配布
- 医薬品、医療用具の運搬
- 支援医療者の調整業務、ドライバー
- 医歯薬3学部合同での医療系ガイドブック作成、広報
亜急性期(高学年)
- 医薬品の分類、管理
- 医療用具の仕分け、管理
- 医師、看護師の往診の補助(薬剤師不在の場合)
- 薬剤師の調剤関連の補助
- 被災者の健康相談
- OTC薬、サプリメント、衛生用品の仕分け、配布
- 支援医療者と共に必要な医薬品を運搬
- 支援活動を終了した医療者からの情報収集、支援活動を開始する医療者への情報提供
- 被災者のニーズ調査
- 医療系ガイドブック作成
慢性期
- 衛生用品の管理
- 運動支援ボランティア
- 傾聴
- 子供の遊び相手
- OTC薬の相談及び配布の補助
- マスクの配布
- 公衆衛生活動:殺虫剤の作り方の指導、散布
- 被災者のニーズ調査、避難所情報の収集、整理
- 栄養ドリンク、衛生用品、消毒剤の分類
- 医薬品、OTC薬の分類
- 医歯薬3学部合同での医療系ガイドブック作成、広報
【参考文献】
東日本大震災における薬学生の支援活動 南絢子 水野智博 宮川泰宏 著
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsp/34/2/34_97/_pdf
災害における心理学
災害心理学でよく耳にするのは『正常性バイアス』ですが、今回は『10-80-10理論』、『プロスペクト理論』について主に触れようと思います。
正常性バイアス
まず正常性バイアスについて簡単に、、、正常性バイアスとは、社会心理学、災害心理学などで使用されている心理学用語で、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のことです。自然災害や火事、事故、事件などといった自分にとって何らかの被害が予想される状況下にあっても、それを正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい、都合の悪い情報を無視したり、「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」などと過小評価するなどして、逃げ遅れの原因となります。
韓国地下鉄火災事件
この心理がよく表れた事件に、韓国地下鉄火災事件があります。2003年に韓国で起こった火災事件で、192人が死亡した事件です。第1079列車に乗っていた自殺志願者が、列車が地下鉄のホームに入った時にガソリンを撒いて火を放ったことによる火災ですが、この事件の特徴は、死亡した192人の内142人が出火元の第1079列車ではなく、対向線路にあった第1080列車に乗っていたという事です。
第1079列車に乗っていた乗客は状況が把握できたためすぐに避難することが出来ましたが、第1080列車に乗っていた乗客は何が起こったか分からず、また地下鉄の指令センターも火災警報器が誤作動したと思い込んだため避難命令も出しませんでした。
人はどうして良いか分からない時、ほかの人と同じ行動を取ることで乗り越えてきた経験、つまり迷ったときは周囲の人の動きを探りながら同じ行動をとることが安全と考える「多数派同調バイアス」の呪縛に、心が支配されてしまいます。
事件発生時、乗客はこうした心理に陥り、同じ境遇に陥った乗客同士が相互にけん制し合い、相互間に同調性バイアスが働いたものと考えられます。加えて、こんなことは起こるはずのない信じられない出来ごとと捉え、これは訓練なのではないか、今は異常ではなく「まだ正常なのではないか」という心理(正常性バイアス)が働き、逃げるという行動に移せませんでした。とくに事態が緩慢に展開していく場合、まだ大丈夫、まだ正常の範囲と期待する本能も作用するともいわれています。
このような心理が働いたため、第1080列車の乗客の方が多く死亡してしまいました。これは災害時にも起こりうることです。
10-80-10理論
10-80-10理論とは、災害発生時、10%は直ちに行動を起こすことができ、10%はパニック状態に陥り、80%は恐怖、唖然、当惑、フリーズする(凍りつく)というものです。
プロスペクト理論
プロスペクト理論とは、人は利益を得る場面では確実性を好み、損失する場面では曖昧さを好むという考え方です。これは防災の面で当てはまります。災害のように損失するのが分かっている事象の起こる確率は低く見積もるため、それに対して多くの投資をするということは費用便益にあわないと考えて結局何の行動もしないという事になるわけです。行政が災害に対して消極的なのは(地域によりますが・・・)これが理由です。また多くの人が、地震により建物倒壊に不安を感じているが、特に何もしていないというのもこれを裏付けます。
災害医療とは
災害医療とは、救急医療とは違う。救急医療は一人の傷病者に対して十分な人員、医薬品を投入できるが、災害時は、多数の傷病者に対して限られた資源しか投じることができない。つまり、災害時には、医療における需要と供給のバランスが崩れる。そのため、救急時には必要のないトリアージという概念が必要となる。
災害医療は三つのフェイズに分類される。
①発災直後(超急性期)
②数日後から一か月後
③一か月以降
①:平時なら救命できる重症患者の救命を最優先課題。DMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害時派遣医療チーム)が活動。OTC薬で対応できる患者さんには薬剤師が判断して対応することも大事(薬事トリアージ)。危険な症状とそうでない症状を見分ける必要がある。参考書としては『内科救急実況Live―講義で学ぶ診療のコツー
薬剤師としてこの超急性期に必要な事は、緊急時に用いる薬剤に精通すること、麻薬などの取り扱いと持ち出しに精通することが必要。
②:このフェイズでは、JMAT(Japan Medical Association Team:日本医師会災害医療チーム)がDMATと入れ替わりで活動。普段の治療を中断しないこと、避難時の生活習慣に注意することが大事。
③:このフェイズは復興が本格的な時期で、特に地域の繋がりに注意する。例えば、訪問診療時に虐待のリスクや孤立するリスクがないかを考える。
災害時は特殊な状況なので、いつも通り他人を思いやって行動することが難しい。なのでそんな時こそ、相手が一番大事にしていることは何かを考えて、ときには相手を許すことで理解できることも増えてくる。また、災害医療は小さなことの積み重ねで。大きなことを自分が成し遂げようとしてしまうことはあってはならない。仕事を選ぶ等は論外である。同じ災害は二度と起こらない。災害医療は、災害に応じて変化するため、過去の事例から謙虚に学び備えることが大事である。
災害とは
そもそも災害とは、自然現象や人為的な原因により人命や社会生活に影響が出る状態のことです。日本の災害対策基本法では、災害を「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害」と定義しています。
災害の要因は大きく分けて、誘因と素因の二つがあります。地震や洪水のような外力を誘因、社会が持つ災害への脆弱性(裏を返せば防災力)のことを素因といい、災害は防災力(素因)を超える外力(誘因)に見舞われたときに生じるといえます。
災害の定義としては、①社会学的定義と②安全工学的定義の二種類があります。
①社会学的定義
社会学定義に基づく災害には、自然災害と人為的災害があります。自然災害には、気象災害、地震、噴火があり、人為的災害には、列車、航空、海難、交通事故、テロ、NBC災害(N=nuclear,B=biological,C=chemical)、CBRNE(R=radiological,E=explosive)災害があります。
②安全工学的定義
安全工学的定義では、日常災害や労働災害を含めた広範な事象を災害として取り扱います。転倒、火傷、医療事故等も災害に含まれます。
被害の大きな自然災害としては以下のようなものがあります。
- 中国大洪水(1931年7月-11月)
死者14万5,000人–400万人、20世紀以降の洪水災害として最大。20世紀最悪の自然災害として確実。1928年から1930年まで、中国では長期の干ばつに見舞われました。いくつかの記録によれば、華中では1930年末の冬から異常気象となり、激しい冬の嵐ののち、春の雪解けと豪雨によって川の水位が大幅に上昇しました。1931年7月・8月には雨はさらに勢いを増し、1931年はまた、台風の活動が極めて活発だった年でもあり、年平均わずか2個の台風しか発生しないこの地域に、この年の7月だけで7個の台風が襲来し、7月だけで長江沿いの4つの気象台が月間降水量600mm以上を記録しました。長江と淮河の洪水は、まもなく当時の中国の首都・南京に到達し、水死あるいはコレラやチフスといった水媒介性感染症で数百万人が死亡しました。
- ボーラ・サイクロン(1970年11月7日~11月13日)
死者30万–50万人、サイクロン災害として史上最悪。1970年11月12日に東パキスタンのボーラ地方(今日のバングラデシュ)とインドの西ベンガル州を襲ったサイクロン。ベンガル・デルタ地帯の標高が低い島々が高潮に襲われ、これを主な原因としてもっとも控えめな見積でも20万5000人以上、最大50万人と推定される人命が失われました。近代以降の自然災害全般の中でも最悪のものの一つ。この被害が余りに激甚であったことが直接的な契機の一つとなって、以後パキスタンは内戦状態に陥り、翌年バングラデシュが独立しました。ハリケーンの規模は最低中心気圧966mb、最大風速51m/sに達した。これはサファ・シンプソン・ハリケーン・スケールにおけるカテゴリー3ハリケーンに該当します。
- 唐山地震(1976年7月28日)
死者242,000–655,000人、20世紀以降の地震災害として最大。中華人民共和国河北省唐山市付近を震源として発生したマグニチュードMw7.5の直下型地。市街地を北北東から南南西に走る断層に沿って大きな水平右ずれが発生し、当時有数の工業都市であった唐山市は壊滅状態となりました。死者数は中国発表で約25万、アメリカの地質調査所の推計では65.5万人となっています。当時中国は文化大革命の真っ只中であり、政府は「自力で立ち直る」と外国からの援助を拒否しました。このことが犠牲者の拡大をもたらした一因だといわれています。
・スマトラ島沖地震(2004年2月26日)
死者226,566人、津波災害として観測史上最悪。インドネシア西部時間07時58分53秒にインドネシア西部、スマトラ北西沖のインド洋で発生したマグニチュード9.1の地震に伴う津波である。マグニチュード9.1とは、東北地方太平洋沖地震(M9.0)の1.4倍の規模であり、1900年以降チリ地震に次いで二番目に大きな規模である。平均で高さ10mに達する津波が数回、インド洋沿岸に押し寄せました(地形によっては34mに達した場所もあった)。アンダマン・ニコバル諸島近海からスマトラ島北西部近海にかけてのおよそ1,500kmの帯状の地域(上のアニメーション参照)の、およそ海底4,000mの場所で津波が発生、津波発生時には2~3mほど海底が持ち上がり、ジェット機並みのスピード(約700km/h)で津波が押し寄せたと見られます。
津波はアフリカ大陸東岸のソマリア、ケニア、タンザニアにも到達し、ソマリアで100人以上の死者が発生。また南極大陸の昭和基地でも半日後に73cmの津波を観測し、また、アメリカ合衆国の西海岸、南アメリカ大陸でも数十cmの津波を記録した。
- プレー山噴火(1902年5月8日)
死者約30,000人、20世紀以降の火山災害として最大。プレー山(仏: Montagne Pelée)は、西インド諸島のなかのウィンドワード諸島に属するマルティニーク島にある活火山。名称は『はげ山』の意味。1902年に大噴火を起こし、当時の県庁所在地だったサン・ピエールを全滅させた。その結果、約30,000人が死亡。プレー山の噴火そのものは特筆するような大規模なものではなく、たまたまサン・ピエールの町が熱雲の通り道にあった事が大災害の直接の原因でした。しかし一方で人災の面も指摘されます。5月に実施予定の選挙のため、市民が市から退避するのを防ごうと、市の首脳部や新聞社はプレー山の活動を過小評価し、あるいは無視して、差し迫った危険を市民に知らせませんでした。災害の直前には市長は市に戻って安全を強調すると共に、軍隊により住民の退去を強制的に阻止しました。しかし、島の地形がサン・ピエール市を災害から守るようになっていると信じて郊外から市内に移った人々もいました(実際、火砕流の本体は谷に沿って流れ、サン・ピエールを外れている)。
- バルガス災害(1999年12月15日)
死者10,000 - 50,000人、地滑り災害として史上最大
- イラン吹雪災害(1972年2月)
死者4,000人、吹雪災害として観測史上最悪
- Daulatpur–Saturia竜巻(1989年)
死者約1,300人、竜巻災害として観測史上最大
PhDLSとは
災害薬事研修コース(Pharmacy Disaster Life Support ; PhDLS)を指します。
概要
2015年度に日本集団災害医学会が立ち上げた研修コースで、現在、日本集団災害医学会PhDLS運営委員会が運営を担当し、災害医療の基本や災害薬事にについて学ぶ機会として、日本各地で開催されています。
対象
対象は薬剤師のみならず看護師、行政関係者、学生等多岐にわたります。
コース
プロバイダーコース・・・すべての職種が対象で学生も可。
インストラクターコース・・・災害薬事研修プロバイダーコース修了者で、意欲があり、各地域単位で災害薬事研修コースを実施するインストラクターとなりうる者が対象。
開催日時
PhDLSのFacebookを参照してください。
https://www.facebook.com/groups/PhDLS/
受講料
開催地によってまちまち。
コースの内容(プロバイダーコース)
朝から夕方まで講義(我が国の災害医療体制や、CSCATTT、PHARMACISTなどの災害時特有の言語について、フィジカルアセスメントの仕方についてなど)と、実際に発災したことを想定したグループディスカッションや机上シミュレーション、薬事トリアージの実技等を行った後、一日の講義のまとめとして試験(筆記試験と実技試験)が行われます。受かれば修了証がもらえ、晴れてプロバイダーになれます。
(自分が参加した会では全員一発合格でしたが、中には再試験になる人もいるそうです)
受講理由
災害医療に関心があり参加する方もいらっしゃいますが、災害医療認定薬剤師の認定基準の1つにもなっているためそれを視野に入れて参加する方もいます。
2016年1月6日に公示された、災害医療認定認定薬剤師の認定に必要な事項の一つににPhDLSの世話人、またはインストラクターであることが示されています。
説明はこんなところにして、参加した感想としては同じグループの方とのディスカッションや薬事トリアージの実技はとても楽しかったです!講義内容も災害医療に興味のある方ならば楽しいと思います!是非参加してみてください!
自分は、学部二年生の時に参加したので、不安でいっぱいだったのですが全然ついていけましたし、災害医療に携わっている方たちとも知り合うことができてとても充実した時間を過ごせました。
薬事トリアージの実技の時に、糖尿病性ケトアシドーシスの模擬患者さんがやってきて、その時は糖尿病である事しかわからなくて、十分な対応が出来なくて悔しかったのですが、後日、大学の生化演習の授業で糖尿病性アシドーシスの内容を勉強したときは感動しました。日々の勉強の大切さを実感するという意外な収穫もあり、学生が参加することのメリットも多いと思います。